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公証事務

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土地建物賃貸借

1 建物の賃貸借

定期建物賃貸借

Q1. 建物の賃貸借契約で、「本契約は、期間満了により終了するものとし、更新することができない。」との約定を入れたいのですが、可能ですか?

   不動産(土地・建物)の賃貸借契約について適用される借地借家法(以下「法」といいます。)によると、法39条の取壊し予定の建物の賃貸借や、法40条の一時使用目的の建物の賃貸借では、そのような約定を入れることが可能です。それ以外の一般的な建物の賃貸借であっても、法38条に規定する定期建物賃貸借契約を結ぶ場合は、同様に可能です。

Q2. 定期建物賃貸借とは、どういうものですか?

   これは、当事者の自由な合意によって選んだ契約期間(例えば6か月、1年、3年等)を経過すれば、必ず建物の賃貸借が終了するとする契約です。

Q3. 定期建物賃貸借の設定に当たっては、どのような点に注意したらよいのですか?

   建物の賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、「当該建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により契約が終了すること」につき、その旨を記載した書面を交付して説明することが必要です(法38条2項)。この説明がないときは、「契約の更新がないこととする旨の定め」いわゆる更新排除特約は無効となります(同条3項)。

Q4. 定期建物賃貸借の契約は、口頭でもよいのですか?

   この契約は、公正証書によるなど書面によって契約をするときに限り、更新排除特約の効力が認められます(法38条1項前段)。公正証書等の書面が作成されていない場合には、通常の普通借家契約として、賃貸人の更新拒絶・解約申入れに正当の事由がない限り、契約は終了しないことになります(法28条)。
   したがって、定期建物賃貸借契約は、公正証書ですることをお勧めします。

Q5. 契約前に公証人に相談できますか?

   公証役場では、契約条項の定め方等も含めて相談にのっています。あらかじめ最寄りの公証役場に連絡のうえ、ご相談ください。相談は無料です。

造作買取請求権

Q6. 造作買取請求権の放棄は有効なのですか?

   建物に付加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ、建物の使用に客観的便宜を与えるものを「造作」といいます(例えば、畳、建具、間仕切り、物干場、固定された戸棚、書棚、ガス・水道・電気設備、空調・ボイラー・ダクト設備等)。造作買取請求権に関する規定(法33条)は、強行規定ではない(法37条)ので、造作買取請求権放棄の特約は有効です。
   なお、強行規定とは、公の秩序に関する法理で、当事者の合意によって左右することができないものです。契約の内容が強行規定に違反するときは、その契約は無効となります。

敷金

Q7. 敷金とは、どういうものですか?

   賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃貸借上の債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭のことです。
   賃貸人は、賃貸借契約が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときは、賃借人に対し、敷金から賃借人の賃貸人に対する賃貸借上の金銭債務を控除した残額を返還しなければならないとされています(民法622条の2)。
   なお、特別の定めがなければ、建物明渡しが先給付になりますので、賃借人としては、不安でしたら、賃貸人との間で、建物明渡しと敷金返還を同時に行う旨の特約を結んでおけばよいでしょう。

契約の解除

Q8. 賃借人が問題を起こしたような場合に備えて、賃貸人の判断で賃貸借を解除できるようにしておきたいのですが、その旨の契約条項を設けるには、どのような点に注意したらよいのですか?

   契約当事者の一方の意思の表明(意思表示)によって、契約がなかった状態に戻す法律上の効果(法律効果)を生じさせることを「解除」といいます。賃貸借のように一定期間契約関係が継続する契約(継続的契約)においては、解除の効果は、将来に向かってのみ効力を生ずるとされています(民法620条)。
   賃借人に何らかの義務違反があれば、賃貸人は債務不履行として契約を解除することができそうです。しかし、建物の賃貸借の場合、ささいな義務違反で解除されてしまうと、賃借人は居住や営業の拠点を失うこととなり、不合理な結果を招くこととなります。そこで、判例は、継続的契約の基礎となる賃貸人と賃借人の間の信頼関係を破壊しないささいな債務不履行では解除できないが、信頼関係が破壊される事態に至れば、解除することができるとしています。したがって、契約をする際には、ささいなことを解除事由と定めても無効になるので、信頼関係の基本となる事由を解除事由に定めるべきでしょう。例えば、賃料不払い、使用目的の無断変更、賃借権の無断譲渡・転貸等が代表的な解除事由です。その他の解除事由も認められますが、信頼関係を破壊するかどうかの判断は、微妙な点もあるので、公正証書を作成するに当たっては、公証人に実情を話して相談してみるのがよいでしょう。

賃借権の相続等

Q9. 建物の賃借人が死亡した場合には、賃借人の地位は相続人によって相続されますか?

   相続されるというのが判例です。

Q10. 建物の賃借人が死亡し相続人がいない場合、賃借人と同居していた内縁の配偶者や事実上の養親子の地位はどうなるのですか?

   内縁の配偶者や事実上の養親子は、居住の用に供する建物の賃借人の権利義務を承継することができます(法36条)。

Q11. 友人に一戸建ての家を賃貸していましたが、友人が死亡し、その長男が相続しました。ところが、長男はその家に居住しておらず、友人の内縁の妻が亡友人と同居していたのです。この場合、内縁の妻はどうなるのですか?

   判例によると、内縁の妻は、長男の相続した賃借権を援用して自己の居住する権利を主張し、家主に対抗することができます。しかし、この場合、内縁の妻が賃借権を取得するのではなく、賃借権は長男が承継するため、長男の賃料の延滞等により賃貸人がした解除の意思表示は有効で、契約は解除されます。また、内縁の妻は、長男に対しては建物占有を主張する根拠を有していないため、建物を占有することによって、長男に対し、賃料相当額の損害賠償義務および不法利得返還義務を負うことになります。このため、長男との間で権利関係を調整する必要があります。

2 土地の賃貸借

一時使用の賃貸借

Q12. 資材置場として土地を賃貸していたところ、建物を建てたいと言われて、承諾することにしました。権利関係をはっきりさせるためにはどうしたらよいでしょうか?

   建物を建てることを承諾することにしたという趣旨が、資材置場としての土地の利用目的を継続するためであって、建物も臨時設備の建物に限る趣旨であるとすれば、法25条の一時使用の賃貸借であることを明確にしておくことが不可欠です。具体的には、賃貸借期間を短期間とし、臨時設備等の建物であることを明確にしておくことが必要です。

強行規定

Q13. 通常の建物所有を目的とすることを承諾するのだとすれば、どうですか?

   臨時設備等の建物ではなく、通常の建物所有の目的ですと、法の定める借地関係の規定(賃貸借の存続期間に関する3条、4条、契約の更新に関する5条、6条、目的建物の滅失・取壊し・再築に関する7条、8条、18条、賃借権の対抗力に関する10条、目的建物の買取請求権に関する13条、14条、賃借権の譲渡・転貸についての承諾に関する19条)が適用され、これらの規定は強行規定とされているので、これらの規定に反する約定で賃借人に不利なものは無効となります(法9条、16条、21条)。

Q14. 公正証書を作成するとき、契約の内容を公証人にチェックしてもらえるのでしょうか?

   公証人は、不明確な条項や無効な約定を含む公正証書を作成するわけにいきませんので、当然入念にチェックします。そのためにも、契約締結前に公証人と相談することをお勧めします。

定期借地権

Q15. 定期借地権であれば、期間満了のときに必ず土地を返してもらえると聞きましたが、定期借地権とは、どのようなものですか?

   存続期間50年以上の借地権(法2条1号では、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権を「借地権」というとされています。)については、次の①から③の特約をすることができます(法22条)。

  1.  期間が満了したときに契約の更新がないこと。
  2.  建物の再築による存続期間の延長がないこと。
  3.  建物の買取請求をしないこと。

   この定期借地権では、期間が満了すれば契約は終了し、土地は更地で戻ってきます。

Q16. 定期借地権の契約には、どのような要件が必要ですか?

   次の2点が必要です。

  1.  存続期間が50年以上であること。
  2.  Q15で述べた特約を公正証書による等書面によってすること。
       なお、法律上は「その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない」とされていますが、通常は、特約を含む賃貸借契約全体を書面化しますので、公正証書によることをお勧めします。

事業用定期借地権

Q17. 存続期間が定期借地権(50年以上)よりも短くて、期間満了後、確実に土地が更地で戻ってくるという制度はないのですか?

   事業用定期借地権があります(法23条1項、2項)。ただし、この借地権は、居住用の目的のものは対象外で、専ら事業用の建物を所有するための借地権に限られます。
   存続期間の長さに応じて、次の①、②の類型により、更新等のない借地権を設定することができます。

  1.    存続期間が30年以上50年未満の事業用定期借地権を設定する場合には、貸主と借主が、契約の更新および建物の再築による存続期間の延長がなく、建物買取請求をしないことを約定すると、この約定は有効で、更新等のない借地権になります(法23条1項)。
  2.    存続期間が10年以上30年未満の事業用定期借地権を設定する場合には、契約の更新、建物の再築による存続期間の延長および建物の買取請求権に関する法の規定は、上記①とは違い、当事者間の約定がなくても、当然に適用が排除されます(法23条2項)。

Q18. どのような建物が「専ら事業用の建物」に該当するのですか?

   事業用の建物には、量販店、レストラン、遊技場、旅館、ホテル等のほか、公益的な協会、学校等のための建物も含まれます。しかし、賃貸マンションや社宅は、賃貸人にとっては事業目的に入りますが、居住の用に供する建物ですから専ら事業の用に供する建物とは言えないので、該当しません。

Q19. 老人ホームを建てるために事業用定期借地権を設定することはできますか?

   一口に老人ホームといっても、その運営・利用形態は様々です。具体的な事案に即して、特定人が継続して専用使用(居住)するのでない建物かどうかなどにつき、検討する必要があります。

Q20. 事業用定期借地権は、どのようにして契約しますか?

   この契約は、公正証書によってしなければなりません(法23条3項)。
   これは、法律専門家である公証人に要件を慎重に審査させ、脱法的濫用が生じないように特に配慮したものです。